下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

2018年12月12日

「美味しい納豆って、
どんな定義があるのでしょう? 
豆の旨味、粘り、香り、食感etc、
考えると色々ありますよね。」

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

そんな質問を
下仁田納豆の南都さんにたずねてみた。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

「美味しい納豆はたくさんありますが、
私たちの作り方は独特だと思います。」

南都さんが答えてくれる。

南都さんの言う独特の作り方とは一体?
新しい製法や最新の設備と言ったことではなさそうだ。 

一言で言うならば、むしろ昔ながらの製法。

でも、昔ながらがすべていいとは限らない。

納豆の昔ながらを振り返ってみることにした。

納豆が世の中に誕生して約1000年。
実は、日本で誕生したので
純日本食文化といえる。

商品として流通し始めたのは
江戸時代と言われている。

江戸の町を「ナット、ナットー♪」という
かけ声とともに売り歩く、納豆売りの姿が
江戸の風物詩としての記録が残っている。

この頃の納豆の製法は、
煮た大豆を藁に包み、自然発酵させるというもの。

すべて量り売りが基本で、
ざるを持って購入し、
江戸っ子の朝食に元気と彩りを添えていた姿を
想像すると、なんともほほえましい。

明治に入り近代化の流れと共に、
もっと衛生的に安定した品質の納豆が求められ、
納豆菌の誕生をキッカケに、
納豆の衛生的品質が飛躍的に高まったといえる。

この頃から、小売りの形態が、
藁に包まれたものや、大正期に入り、
経木に包まれた納豆が登場し始める。

実は納豆製造において
容器は特に重要と思われている。

それは、容器はただの容器ではなく、
発酵させるための道具なのだから。

ちなみに、藁包みに始まり、
下仁田納豆の特徴でもある経木(きょうぎ)、
紙容器、発泡スチーロール容器と
食品工業の発展と共に容器包材にも
移り変わりがある。

経木とは赤松を薄く削ったもので、
食品の包装に利用された歴史は、とても古く
大和時代にさかのぼって記録がある。

赤松経木に含まれる香りは
天然の制菌成分であり、
心地良い香りと共に適度な通気性と保水性は、
食品を保存するための機能的にも
優れている素材である。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

そんな経木に包まれた納豆は、
明治から大正にかけて
誕生したのではないかと思われる。

納豆容器が重要である理由は、
納豆が納豆たるゆえん、発酵の善し悪しにある。

蒸された大豆は直接容器に入れられる。

そして室で発酵させて納豆は作られる。

なので、最適な発酵を促すための容器には、
通気性、保水性、保存性、
離型性(ねばねばが離れる)など
相反する様々な物性が求められる。

納豆菌が増殖するためには
酸素と温度が必要不可欠。

最適な温度と同時に
大豆の表面一粒一粒に
酸素の供給が最適な発酵を促す条件といえよう。

その意味からすれば、
赤松経木と納豆製造は奇跡の出会いだった。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

といっても大袈裟でない。

次に、昔からの変遷でいえば、
室(発酵室)の温度管理にある。

現代の納豆室は、
温度、湿度に保つための熱源は、
ほぼ電気ヒーターである。

なぜなら、電気ヒーターならば、
コンピューター管理で最適温度を
保つことが簡単であるからである。

まだ電気が一般的ではない一昔前、
熱源は室の中で炭を焚き、
ヤカンか鍋に水を張り、
蒸気で湿度を保つという方法がとられていた。

炭火発酵製法という。

実はこの方法、大変危険な仕事で、
過去には死者が出ていたという。

それは、炭を燃やすことで発生する一酸化炭素は、
生物にとっては猛毒でその濃度によっては、
人間も一瞬で意識がなくなり、
呼吸が停止してしまうからである。

大袈裟に言えば、
炭火発酵製法の納豆作りは
命がけであったともいえる。

多くの納豆メーカーが安全性、
合理性、効率化の観点から
炭火発酵の製法はとらなくなった。

当然の選択であろう。

しかし、そんな危険な炭火発酵製法を
とり続けるメリットは、
経木との抜群の相性にあるといえる。

室は密閉され、
炭火とヤカンからの蒸気によって
室温を上げていく、この時、
室の中は一酸化炭素が充満し、
いかなる生物も生存が不可能な状況となっている。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

酸素を必要とする納豆菌も
自らの防衛本能で活動を停止し、
死滅を防ぐためにじっと強く耐えている。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

南都さんは「納豆菌を強く鍛える工程です。」という。

炭火から発生する遠赤外線は
大豆を中心部まであたためる。

それにより納豆菌による発酵が真まで届く。

炭火で焚かれた香りは経木に香りを纏わせる。
経木はさらに豆に香りを纏わせる。

だから経木なのだ。

温度が一定に達した時、
一気に天窓を開け空気を取り入れる。

この瞬間、納豆菌は一斉に増殖し、
粒の一粒一粒、隅から隅まで、
奥の奥まで発酵が連鎖的に広がってゆくという。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」

だから、豆は旨味を増し、
形を残しながら中は柔らかく
とろけるような仕上がりになる。

そして、20時間の発酵工程のうち、
約7時間間隔で、室の中で上下の切り返しを行う。

夜中の2時と朝の5時だ。

室のどの位置にあっても、
安定した最良の発酵状態を作るために、
泊まりがけの管理を行っている。

しかも、気を抜けば、
一酸化中毒で命の危険さえある。

これが毎日の繰り返しで、
これが昔ながらの納豆作りなのだという。

本当にここまでやっているの?
下仁田納豆は本当にやっている!

日本で誕生した納豆。

日本の素材だけで、伝統製法で作られる納豆は、
まぎれもなく純日本の文化。

ゆっくりと時間のある朝は、
経木に包まれた納豆を自分で開き、
天然木の香りに癒やされながら、
先人の知恵や努力、
文化に思いを馳せてみてほしい。

魯山人のごとく、しっかりとかき混ぜ、
ネバネバ糸を高く伸ばしてみると、

「今日のあさめしは、下仁田屋の納豆だぜぃ♪」

威勢のいい江戸っ子のかけ声が
聞こえてきそうだ。

それは大袈裟か。

下仁田納豆製法編「食えば分かる日本の食文化」



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